インド映画夜話

Tere Bin Laden: Dead or Alive 2016年 104分
主演 マニーシュ・パウル & プラドゥマン・シン・マル(脚本も兼任)
監督/脚本 アビシェーク・シャルマー
"100万ドルの嘘を、貴方に"



*そのBGMは「カウボーイビバップ」やないかい?(本編では使用されてなかった)


 オールドデリー下町の菓子屋の息子シャルマーは、無理矢理店の跡取りにされそうになったことから家出して、長年の夢「映画監督になる」ためムンバイへと旅立つ。

 ムンバイで仕事探しに奔走するシャルマーは、ある日のバスの中、世間を騒がすオサマ・ビン・ラディンそっくりの民謡歌手パディ・シンと出会ったことをきっかけに、彼を映画会社シェッティ・シスターズに売り込んで見事「Tere Bin Laden(君はビン・ラディン)」という映画を撮って大ヒットさせてしまう!
 次も同じメンバーで続編映画を撮ろうとした矢先、主演のアリ・ザファールは「今度は、カラン・ジョハールに続編撮ってもらおうぜ」と言い出すし、脇役たちも取材責めに飽き飽きして映画界を離れて行ってしまう。さらには本物のビン・ラディン死亡のニュースによって、シャルマーが企画していた続編映画は完全に頓挫する…!!
 その頃、「インドで死んだはずのビン・ラディンが生存しているらしい」と言う情報を確かめるため、米国CIAとパキスタンに集まるテロ・オリンピック参加者双方がインド入りしていたのだが…!!


挿入歌 Mara Gaya Hai ([オサマは] 死んだ)

*オサマ・ビン・ラディン殺害のニュースと共に、アメリカ側の演説をラップ調に伝えるなんともアメリカをおちょくったミュージカル。このニュースを受けて、主人公の立場もなくなる葛藤と絶望も笑い飛ばしてくる演出が楽しい。


 2010年の「Tere Bin Laden(君はビン・ラディン)」の続編。
 タイトルは、前作と同じくヒンディー語(*1)で「ラディンなしには(別意:君はビン・ラディン)。生死を問わず」。

 その、人を食ったかのようなブラックジョークなノリで、監督デビュー作ながら大ヒット作を実現させた前作から共通で、アビシェーク・シャルマーが再びメガホンを取った続編で、お話的にも繋がっている映画。
 ただし、前作映画を劇中劇に仕立てて、その映画を撮ったメンバーを主役にして「じゃあ、続編をどうやって作ろう?」と奔走する様を見せる間接的舞台裏続編ってやつで、そこにアメリカ人諜報員たちとパキスタンに集まったテロリストが道化役として徹底的にバカをやるブラックジョーク満載なひねくれた構成(*2)。
 インド映画続編でよくある、共通するのは登場人物の名前や設定だけで話は別物、としなかった所は、1発ネタに近い「ビン・ラディンのそっくりさんが出てきてもう大変」ってアイディアを2度目にしてよくもこうこねくりまくったなあ、と変に感心してしまいますことよ。

 前作主演のアリー・ザファルも本人役で出演するし、前作主要登場人物たちも再会を果たす姿も微笑ましきかな。前作があくまで劇中劇扱いなので、それぞれの共通出演者の性格が変わってても「演じてた役と本人は別もんだし」と言えてしまう楽しさで、世界情勢をおちょくってるのと合わせて、映画の企画制作そのものもおちょくってるように見えてくる。
 まあその分、前作にあった切れ味の良い社会風刺はやや後退し、ボケ倒しの不条理ギャグで進行するシチュエーションコメディ色が強くなった感じはある。玩具だと思って本物の銃ぶっ放して、見張り役の米兵殺しちゃったのを必死に誤魔化したり、その死体を女優だと思って言いよってキスしちゃって騒ぎなるとか、手段を選ばないブラックな笑いも多くてさあ…。アメリカのCIA諜報員ディヴィッドとジュニアのコンビもボケ倒しのしょーもなさなのが、前作と共通する米国おちょくり要員だったりもしてるけど。ムゥ。

 主人公シャルマーを演じたのは、1981年デリーのパンジャーブ人金融業者の家に生まれたマニーシュ・パウル。
 観光学の学位を取得しつつ、学生時代には様々なイベントでの司会進行を務めていて、卒業後にムンバイに移住してからラジオDJとして活躍。06年にTVシリーズ「Ghost Bana Dost」に出演して男優デビューしてからTV俳優兼TV司会としても活躍し始めるものの、08年に一旦仕事を休んで映画界へのオーディション生活を始める。09年の「Maruti Mera Dost」や10年の「Tees Maar Khan(30人殺しの大ボラ吹き)」などでの端役出演を経て、13年の「Mickey Virus」で主演&歌手デビュー。以降、映画・TV双方で男優兼モデル兼プレゼンター兼コメディアンとして活躍中。

 前作から続投の、ビン・ラディンのそっくりさん(*3)には、1983年ウッタル・プラデーシュ州デヘラードゥーン(*4)生まれのプラドゥマン・シン・マル。
 長い長いオーディション選考を経て、前作「Tere Bin Laden」で映画デビューを果たし、ヒンディー語映画界で活躍中。本作では出演の他初めて脚本にも参加していて、20年にはイギリス映画「Doorman」で監督デビューもしているらしい(?)

 ビン・ラディンそっくりさん映画の続編を作ろうとしたら、ビン・ラディン本人の殺害ニュースで世間の興味が速攻で消え去ってしまうのも皮肉な展開だけど、そこに「ビン・ラディンを米軍が殺す劇的なシーンを撮りたい」と言ってCIAが乗り込んできたり、逆に「ビン・ラディンが生きている証拠が欲しい」とテロリストが邪魔しにきたりと二重の皮肉が物語を転がし始めるのも刺激的。そして、アメリカもテロリスト達もどちらにもかなりなブラックジョークでおちょくる風刺的過激さは前作以上か(*5)。ビン・ラディンそっくりさんを出してくる映画に、オバマにやや似の男優(*6)を出演させてるのも、この映画の意図的な遊びってやつでしょか。
 もしシリーズ3作目とかが作られたら、やっぱ「Tere Bin Laden: Dead or Alive」を作ったスタッフがたちの悪戦苦闘物語になるんかしらん?(*7)

ED Itemwaale (アイテムワーラー)

*ハリウッド進出した劇中映画制作者に対して、プレミア会見で「それで、今回のアイテムソングは?」と聞かれて「そんな下品なものは必要ないんだ。なんたってハリウッド映画だからね!」と言い切って始まる出演者オール出演のアイテムソング! インドのアイテムソングなる商売戦術そのものをおちょくるエンディングソング!!



「TBL DA」を一言で斬る!
・「オールドデリーのどこか」から始まって、「パキスタンのどこか」から「どこかのどこか」へ話が移って行くいい加減さが(⊃°ω°)b イイネ!

2022.5.21.

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*1 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*2 コメディ劇としては、まあありがちなのか…?
*3 本作では役名パディ・シン。
*4 現ウッタラーカンド州の冬の州都。
*5 面白くなってるかどうかは…まあね、って感じ。
*6 演じてるのは、オバマ大統領のそっくりさん芸人として活躍する米国人イマーン・クロッソン。
*7 もう、流石にビン・ラディンネタは賞味期限切れだろうけど。